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彼女の母親の家を見た時、私は後悔した。
けど、もう目の前に来ているので引き返すことはできなかった。
実際、車は彼女の軽自動車で、私は助手席なのだから。
田舎でもそういう家は見たことはあるが、決して近寄りはしなかった。
関わらないのがいいということは、中学生にもなればわかることだった。
その当時は、世間の景気が良くなっているころで、そういう家に住む家族自体が減って来ていたので、その地区の半分は空き家のようだった。
本当に私の思考回路は凍り付いた。
引き返せない。
しかし、挨拶のしようがない。
本心は逃げ出したいのだから。
記憶が定かではないが、おそらく私はほとんど話さなかったと思う。
食事のあと、彼女に怒られたが、何も予備知識を与えなかったのが意図的だと恨んだ。
そもそも結婚なんてしようとは思っていないし、という逃げ口上ばかりが頭を巡った。
この粗末な家で育ったということの歴史が重く私を押さえつけていた。
普通の家、普通の家庭、普通の人生。
そういうものにあこがれがあった貧しい私の少年時代。
しかし、貧しさはまだまだ底が深かったということを見たのだ。
それに追い打ちをかけるような出来事。
15歳の彼女は賢明に這い上がろうとしていたのだ。
その梯子に私が選ばれたのかもしれない。
今にして思えば、後輩の熱心さは、先輩の境遇を知っていたからかもしれない。
NOと言えない気が弱くて誠実な有望株。
地域最大手の社員なら間違いないと思われたのかもしれない。
いいことをしたね。
仲人の奥さんは、私に知らしめた。
私は偽善者になったのだ。
役を演じるしかない。