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携帯が鳴っていた。
彼女の寝室で。
忘れて行ったのだ。
それは油断だったのか、罠だったのか。
ありきたりの話だ。
親しげなメールの数々。
20年経った今は、警告だったのかもしれない、と思える。
浮気は男だけのものではないと。
泥の中から救い出したように見える私たちの結婚は、まったく違ったものだった。
義母は、私に十分すぎるほどの労りを与え、家族というものを否定していた少年時代をもう一度やり直しているくらい恵まれていた。
自分の誕生日会、バースデーケーキを経験したのは、初めてだった。
救い出されたのは私だったのだ。
しかし、私はそれを素直に受け取れないままに過ごした。
未だ行くべきところも道も見いだせていなかったから。
私がいなくても母子は生きていけたのだ。
頼りない父親の為に、家まで与えられた。
それは二人目が生まれた当日だった。
泥沼で生きていると思っていた義母は、質素に懸命に生きて来たすべてを私達に与えたのだった。