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ついに終わりが来た。
子どもたちはそれぞれ独立している。
私は、妻といると咳が出るようになった。
身体が拒否しているのだ。
それがだんだんひどくなり、妻もそう確信したのだろう。
義母の介護を理由に週末はあちらへ泊まるようになった。
そして、半年後には完全に生活を移した。
すなわち別居である。
2年経った秋に義母が死んだ。
介護の為という世間向けの言い訳は通用しなくなり、私は家を出ることにした。
彼女が私の失踪に気が付くのはいつだろうか。
給料日に私が引き出したお金を取りに寄る時だろう。
その間の連絡と言えば、重要な郵便物が来た時くらい。
1月の月末、すべての契約停止を連絡して、昼前に家を出た。
目指すは北。
北海道へは40年ぶりだったろうか。
廃村となった開拓村へ向かった。
そして、車ごと入れる馬小屋の中で、眠ることにした。
彼女が異変を知るのは2月の給料日か。
それから、探そうにも足取りはつかめないだろう。
警察か地元の人が車を発見するのは、早くても春だろう。
もしかしたら、もっともっと先のことかもしれない。
物好きな泥棒が売れるものを探し来たら。
日常の中にも空白地帯はあるものだ。
まったく変化がないのが、人が寄り付かなくなったかつての生活場所だから。
廃墟は何故廃墟になるのか。
それは、生きた人間がいないから。
終わった。