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その人はバツイチになったので働かなくてはいけない、という噂を聞いた。
理科は、なかなか人材が定着しない。
コマ数の関係で給料が安いから。
算数は塾長。
中学の数学は別の専門家。優秀な方はやはり定着しない。引き抜かれるから。
私は当初、中学の国語・社会だった。
面接時は社会で行ったのに、国語出来るよね、と強引に押し切られた。
NOと言えないし、免許はなかったが昔から得意で自信はあった。
そうなんだ、本当は文学部へ行けばよかったのに、勇気がなかった。
いや、英語力がなくて入試についていけないレベルだったのだ。
まあ、1年目はそこそこうまくいった。
2年目に彼女が来たのだ。
年上だが、私のストライクゾーン。知的で背が高く美人。
どうしてバツになったのかより、デートしたいとすぐに思った。
最初の子どもが生まれて間がないのに。
家庭??は母子で成り立っている感じだったから。
赤子を抱いて塾に来た時も義母がいた。
妻が車を運転して、義母が抱いていた。
塾からのお祝いのお礼に来たのだ。
そもそも産院が塾長の奥さんも利用したところで、奥さんは出産祝いに行ったのだ。
したがって、一見和やかな風景も、私には女性独特の火花が散っているよう感じた。
塾長の奥さんは、新しいバツイチ美人と塾長を疑っていたが、どうも私と親しそうという見立てで、それとなく妻に彼女の存在を知らせたようなのだ。
新し女の人が入ったんですって??
ああ、バツイチのおばさんだよ。
キレイな方なんでしょう。
ううんん、どうかな。
実にヒヤヒヤするやり取りである。
そういう背景のもと、産院が近いということもあって、昼間に寄ったのだ。
すると、バツイチはカメラを持ってきて、私を含めた写真を撮った。
おいおい、どうしてカメラを持っているのだ??
美男という形容で語られる時、それは同時に嫉妬が燃える時。
小心者の私は、直接話も出来ない。塾内では。
ただ、掃除のときは、小学校舎とは道を挟んでいるので、比較的気楽になった。
もっぱら向こうから聞いて来るのだが、先生の授業は楽しそうですね、と言われて心が揺れないはずはない。
明らかに好意が塾内でも見えてきたころから、塾長のイジメが始まりだした。
夏期講習は朝から夕方まで全部埋まった。週6日。
なんとか乗り切った9月には過労で入院した。
そして10月に辞めた。
妻は喜んだ。