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20代と思われる責任者は、座ったまま振り向くことなく、無言で勤務報告書に判を押した。

なんかつぶやいたように思えたが、動じず、ありがとうございました、と礼をして退出。

 

立ちんぼーが。

 

おそらく、そういう意味で言ったのだろう。

 

たしかに一日中、立っているだけなんだ。

名目上は、現場へ出入りするトラックの監視業務となっている。

他に一般車が進入しないように、制止、誘導とかも。

 

しかし、そういうことはまずない。

 

しかも12月、雪が降っていた日だ。

 

国の整備事業なので大手がやっている。

事務所となっているプレハブも3棟ある。

作業が遅れているのか、イライラしている感じ。

 

私たち警備は、時間契約。17時終了。

彼らはとてもじゃないが、終わった感なし。

 

私の勤務は2~3日で一区切りにしてもらっているから、この現場は今日で終わり。

 

この仕事をし出してすぐに分かった。

この世の最低仕事扱い。

現場の作業員たちが明らかに仕事量多い。

一方こちらは、田舎なので交通量少なく、見るからに暇そう。

そりゃ、嫌味の一つも言いたくなるはず。

 

ということで、同じ現場は長くて3日で終わるようお願いした。

そのかわり、遅刻・欠勤はしないし、受け答えはプロなので問題ない。

(つまり、その他はトラブル続出が当たり前のレベルが多いということ。)

 

かといって、私がその方々を見下すことはない。

私は、人とのかかわりを避けるように、わざわざ1時間以上かけて田舎へ来ているわけだから。

 

話かけることはしない。

話しかけられもしない。

 

ただ、立っているだけ。

 

それでいい。

 

都会の警備では不可能だろうな。

逆に、大都会で警備をする理由が理解できないが。

彼らは、故郷へは帰られない方々なのかもしれない。

すべてがそうではないだろうけど、・・・やはり、私も世間一般と同じ見方をしているのだな、と感じてしまう。

 

しばらく髪結いの亭主でのんびり過ごすが、次男の大学合格で状況一変。

 

私が働かなくては学費が払えない。

 

久しぶりの警備復活。

流石に昼間の長時間は体が持たない。

短時間で、学費分を稼げるのは・・・

居なくては

あった、スーパーの夜間警備。

24~04。5,000円。30分の休憩付き。

しかも、郊外の田舎。(知り合いに会う確率とても低い)

 

足の状態はギリギリで最後の学費分確保で、速攻辞めた。

管理する会社のスタッフがいい加減で助かったラスト1年。

チェックが大甘。省けるだけ省いた。歩けないので。

 

貧すれば鈍する。

しかし、それで回る現場もある。

そういう仕事に来る人間がいないから。

 

ガソリン自分持ちで5,000円では、大の男は生活が難しい。

 

そうやって稼ぎ出した学費なことは十分承知な次男は、上昇志向が強くなり、転職をして上場企業へ行き着いた。

 

感謝や恩の押し付けになったか、と心配するけど、無力な私にはどうしようもできない。

 

無理して帰省などせず、遠く離れて暮らしている方が、気楽でいい。

 

暗い顔して帰省されても、どう接していいか、困るから。

 

子どもは結構、うまく育ったと思うが、大人になったら自分の人生を自由に生きてくれた方が嬉しい。

 

最悪なのは、介護が必要な状態で、子どもに頼ること。

 

15歳から3年間、毎日のように死ぬことばかり考えていたが、還暦を過ぎて再び、迷惑をかけない死に方を考える日々だ。

 

大きな災害で死ぬなら、それこそ幸いだ。

自死は残されたものが辛そうだもの。

 

私の特異な願望による死への助走は、自分へは不可能だった。

 

他者へは・・・・・効くのに。