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車の数をカウントするバイトは、朝早いのと排気ガスと休憩が難点。
だからバス・ターミナルでの乗客カウントはおいしい仕事。
その日の夕方、そろそろ終わるという頃に、
あれ、N君?
お、Sじゃないか。
久しぶり。
もうすぐ終わるから、待ってて。
うん、そうする。
最後の客をカウントすると、ちょうど00と数字が揃った。素晴らしい。
待たせていたSのところへ戻ると、
久しぶりね。
実習の時はあまり話せなかったね。
忙しかったからな。
前年、田舎の中学で教育実習するために、学校へ挨拶に行くと、
今年は多くて職員室に入りきらないから、生徒会室を用意した。ということだった。
中学の同級生が3人、先輩が1人。
同級生は、親が元教師ばかり。
その中で唯一の女子は、現教育長。(元中学校長)
だいたい親が教師という子どもは、いいことがない。
友達としては付き合い難い。
成績は良くて当たり前。
だから、当時、告白みたいなことを言われても、面倒だなあと思ったくらい。
実習の時も、まだ熱いメッセージや視線を送って来るから、クラブ指導と称して逃げていた。
でも、街で出会うのは気が楽。
まったく何も気にしなくていい。
まさに、渡りに船??
いや、据え膳という場面か。
向こうから来ているわけだし。
ということで、すぐに場所を変えた。
隣がシテイ・ホテルなのだ。
まずは喫茶コーナーへ。
凄い偶然ね。
ずっと(H市に)居たのに・・・(全然会わなかったのに)・・・
そうだね、けっこうこのあたりバイトしてたんだよ。
へえ、どんな?
例えば百貨店のお得意様内覧会とか。
ええ、それって、どんなバイト?
白っぽい麻のブレザー着て行ったら、いきなり、
じゃ、N君、正面玄関でお客様をお迎えして下さい。
他の人は彼について行ってください。
って、感じ。
わあ、カッコいい。
うん、俺もびっくりしたよ。
服の指定は無かったけど、M越だから。決めていったんだ。
それより、今日はどうしたの?
チョット・・・ほんとびっくりした。
改札の横でカウントしているんだもの。
帰るところだったのだろう。
時間は大丈夫?
全然。
もう、大人よ。
就職も決まったし。
へえ、どんなところ。
小学校に決まったの。
へえ、試験受かったの。さすが。
(受かるよなあ、親が親だから。)
N君は?
俺は、医薬品の会社。
試験前に内定もらってたから。
先生に向いてるのに。
ダメだよ。
学校は面倒だ。
遊べそうにないもの。
真面目なのに。
疲れたよ。真面目は。
もっと楽したい。
意外。
ここじゃ、話せないから、上へ行く?
・・・
じゃ、フロントへ行ってくる。待ってて。