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講義が終わり、大学敷地内にある寮へ戻ると、郵便受けに手紙が来ていた。

 

高3の時の同級生。

美人だが寡黙でミステリアスな子で気にはなっていたが、自分から声をかけるのは本意でなかった。

 

その彼女から手紙が来た。

市内の銀行に就職したという、一見業務連絡風。

しかし、ちゃんと電話番号が書いてあったので、中心部の喫茶店で待ち合わせ。

 

あわよくばという準備をして待つ。

初めて会話した。

同い年といっても、あちらは社会人として働いているので年上感が出ている。

負けてはと、大学生活をエンジョイしてる風を装う。

 

ところで、家は近くなの?

 

ううんん、少し離れている。

会社の寮なの。

 

そう、じゃ電話は共同?

 

ええ、新人が近くの部屋なので、すぐに出なくちゃいけないの。

 

へえ、何人いるの?

 

10人くらいかな。

 

一人一部屋?

 

うん、先輩はそうだけど、新人は2人なの。

 

仕事、キツイ?

 

うん、わからないことばかりだから。

 

今日、門限とか大丈夫?

 

一応、新人は9時なの。

 

へえ、やっぱり、最初は厳しいんだ。

 

N君は、門限あるの?

 

まあ、11時ということになっているが、自分のところは一階だからどうにでもなる。

でも、特に用もないから夜は出歩かないけどね。

 

ふうん、まじめなのね。

 

いや、金がないだけ。

 

バイトとかしないの?

 

今は入ったばかりで講義へでると疲れて、バイトに行く気がしない。

 

へえ、そんなに講義があるの?

 

おお、入ってから気が付いたんだが、普通に講義取ったら、半分くらいヒマなんだよ。

 

で、お金がもったいないから、教職課程もとったら、今度は全部一杯になった。

 

え、先生になるの?

 

なれるわけないだろ、私立からじゃ。

国立に専門課程があるんだから。

 

じゃ、どうするの?

 

どうもせんよ。

 

教育心理とか、面白いから受け取るだけ。

まだ、入ったばかりで、先のことは考えとらんよ。

慣れたら、遊びたいのが先じゃ。

 

へえ、遊ぶんだ。

 

そりゃ、そうだろ。

その為に受験勉強したんだから。

 

いいなあ、私も大学へ行きたかった。

 

・・・・

 

少し慣れて、ゆとりが出たら、ドライブでも行くか。

 

車、持ってるの?

 

免許はあるから、レンタカー借りればいいよ。

 

週末にバイトすれば、それくらいはすぐに稼げるから。

 

じゃ、今度誘ってよ。

 

ああ、日曜は休みだろ。

 

ええ。

 

 

高校時代から、あちらも気にはしていたということかな。

 

美人・美男にはあるあるなんだよなあ。

 

自分からはいけない。

プライドがあるから。

 

いや、それ以上に、誘いは向こうからあり、断るのが常だったから。

 

自分で行くという概念はなかった。

 

ということは、銀行は相当きつそうな感じだと思った。

 

茶店へ入って来た時は、辞める相談かと思ったくらいだから。

 

高校時代の暗さは、家に問題があったのかなあ。

 

なにしろ、時代と高校のレベルとも相まって、9割の進学率だったから。

 

就職したことに驚いて、みんな引いていたものな。

 

しかし、彼女とは二度と会うことはなかった。