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おい、Mを呼んで来い。

 

バスから降りたら、後ろから声がした。

今まで話したことない上級生。

たぶん工業高校だろう。

 

おい、お前、Mの同級生だろう。

呼んで来いよ。

 

ここで拒否する選択肢はない。

そういう雰囲気だ。

仕方ないので、帰りかけているMを呼び止め、呼んでいる、と伝えて逃げた。

 

その後、どうなったかはわからない。

 

私はすぐに自転車通学に切り替えた。

片道15km、1時間だ。

 

Mは私と同じ普通科の高校だったが、クラスが違う。

頭がよくて美人なので目立つということは、いいことばかりじゃない。

それは私もよく知ることだ。

 

中学で一緒になってすぐ、親戚の大人が話題に上げていた。

おじいさんが頭良くて東京の大学に進んだのだが、数年して自殺したという話。

 

私と彼女は舞台では主役とその相手という形や、夫婦という設定もあった。

美形で頭がいいとこうなるのだ。とても荷が重い。

うまくやって当たり前、その役をやりたいモノからはひがみ・妬み。

 

高校へ進学して、やっと二人とも開放された気分だった。

頭のいい奴、美形もさらに上がたくさんいるから。

何しろ中学は人数が少ない。1クラス男17人・女18人という感じだった。

それが高校では7クラス300人位いる。

本当に重荷を降ろした、呪縛から解放されたような日々だったのに。

 

その工業高校の先輩が、バイク事故で亡くなったという話は冬だった。

 

雪の日に、コーナーで対向車線に滑ったところへ、大型トラック。

無免許だし、自業自得と、誰もそれ以上話題にしなかった。

 

私も、その時は何も感じなかった。

 

自分との関係を。